今回ご紹介するのは心理学者ダニエル・ゴールマンさんの「ビジネスEQ」です。サーチインサイドユアセルフの著者チャディー・メン・タン氏が推奨されていたので即購入しました。
まずはEQについて簡単に説明が必要かもしれません。IQ「知能指数」は比較的なじみがあります。一方でEQは感情知能(Emotional intelligence)とされており、感情をマネージする事を通じて、人々が共通の目標に向けて協調して仕事を進めることが出来るように、感情を適切に、効果的に表明するスキルなのですが、なんとなく雲をつかむような表現ですよね。
会社が直面している問題
アメリカが雇用主を対象とした調査によると、組織で働いている人たちの半分以上がその職務について学び、能力を向上させるモチベーションに欠けると表明していた従業員の10人のうち4人は同僚と強調して仕事を進めることが出来ず、また初認の職務に応募してくる人たちの19%のみが、その勤務態度において自己統制スキルを身に着けているに過ぎないという結果が得られました。多くの若者が他人の批判を受け止めることが出来ず、フィードバックに防衛的になり、敵意すら示すとのことでした。こうした問題に会社が学習能力の次に重要なスキルとしているのが次のEQスキルです。
- 傾聴と会話を通じたコミュニケーション
- 問題や障害に対する適応力と創造的な反応
- 個人的規律、自信、目標達成に向けてのモチベーション、自分のキャリアを伸ばそうとする意欲、目標達成に対する誇り
- グループ内、対人関係における効果性、協調性とチームワーク、意見不一致の際の交渉能力
- 組織内での効果性。組織に貢献し、リーダーシップ能力を発揮する意欲
感情コンピテンス
EQはどうやら感情をつかさどるスキルだという事はなんとなくわかりましたが、具体的にはどういったスキルなのでしょうか?本書ではEQを包含する5つの領域と25の感情コンピテンスとの関係が定義されています。
個人的コンピテンス我々が自分自身をどうマネジするかを決定するコンピテンス。自己認識自分自身の内的状況、嗜好、リソース、直観を理解する
- 感情の理解:自分自身の感情とその影響を理解する
- 正確な自己評価:自分の強み、弱みを理解する
- 自己確信:自分の価値と能力に対する強力な自信
自己統制自分自身の内的状況、衝動、リソースをマネジする
- 自己コントロール:破壊的な感情や衝動を監視する
- 信頼性:誠実性と統合性の基準を保持する
- 誠実性:自らの業績に対して責任を担う
- 適応性:変化に柔軟に対応する
- イノベーション:新奇なアイデア、方法、情報を積極的に活用する
モチベーションゴールに到達することをガイドし、促す感情の傾向
- 達成意欲:向上を目指す意欲、卓越レベルを達成する意欲
- コミットメント:グループまたは組織のゴールに自らのゴールを適合させる
- 率先行動:機会を活かす行動を積極的に進める
- 楽観的見方:障害や問題にめげず、ゴールを粘り強く追及する
社会的コンピテンス我々がいかに諸関係を処理するかを決定するコンピテンス共感性他の人のニーズ、関心を理解する
- 他の人を理解する:ほかの人の感情と考え方を感じ取り、彼らの関心に積極的な興味を示す
- 他の人を育てる:ほかの人の開発ニーズを理解し、その能力を開発する
- サービス重視:顧客のニーズを予測し、認識し、満足させる
- 多様性を活かす:さまざまな種類の人材を通じて機会を開拓する
- 政治の理解:グループ内の感情的流れとパワー関係を読み取る
社会的スキル他の人から望ましい反応を引き出す熟達した技能
- 影響を及ぼす:説得のための効果的な方法を生む
- コミュニケーション:オープンに他人に耳を傾け、説得力のあるメッセージを送る
- 対立マネジメント:意見不一致を交渉し、解決する
- リーダーシップ:個人やグループを鼓舞し、ガイドする
- 変革の触媒者:変革を開始し、マネジする。
- 連帯を築く:相互支援的な関係を育てる
- 協調と協力:共通のゴールに向けて他の人たちを一緒に仕事を進める
- チーム能力:チーム全体のゴールを追求するためにグループとしてのシナジー(相乗効果)を生む。
これらの感情コンピテンスのすべての尺度で満点を取る人は存在しないのですが、卓越した業績を生む条件は、これらの感情コンピテンスのいくつかで、最低6種類前後のコンピテンスで強みを備え、それらが5つの領域に広く分散しているという事です。
もしこれらの5つの領域に強みが分散していないようであれば、弱い領域のEQを強化すればバランスが取れ、個人的コンピテンスから社会的コンピテンスへスキルアップを果たすことが出来ます。強みを弱みを把握するためのチェックシートを用意しました。各感情コンピテンスを1~5点で評価して評価することが出来ます。
25の感情コンピテンスすべてをご紹介するにはあまりにも骨太な内容なので、詳細は本書を手に取ってもらうとして、最もベーシカルかつ重要な自己認識から感情の認識についてご紹介したいと思います。
感情の認識
感情の認識とは、「自らの感情とそれから生ずる影響を認識し理解する」ことです。このコンピテンスを備えた人材は次のようなスキルを有します。
感情認識スキル
- 自らがどのような感情を抱いているか、それがなぜかを理解する。
- 自らの感覚と自らが考えて、行動し、発言する事との間の関連性を理解する。
- 自らの感情がその業績にどのような影響を及ぼすかを理解する。
- 自らの価値観や目標が自らをガイドする役割を担っていることを認識する。
職場での忙しい仕事とプレッシャーの中で、我々の心は思考の流れによって占領される。計画を立てたり、課題に集中したり、やり残していることが気になるなどです。この様に日々感情を抑圧さているため、あふれ出して初めて感情に気付くことが出来る。しかし、我々がもっと感情に関心を寄せていれば、感情があふれ出す前に微妙な変化まで認識することが出来るようになります。
しかし、忙しい生活において、我々に学習して、内省し、反応する時間を与えてくれない。我々の体は、もっとゆっくりしたリズムに適合するように作られているため、感情に気付けないのです。
自らの感情を理解できない人は大きな不利を負っている。例えば慢性的な頭痛、腰痛、不安に対する発作、何らかの体の不調を訴えるメッセージを感じ取れなくなる。ひどくなると快不快の感覚ですら理解できなくなってしまいます。特にポジティブなムードの表現がほとんどできないのです。ここで朗報なのが、「自己認識」は向上させることが可能です。
「自己認識」は向上させることが可能
シリコン・グラフィックス前CEOエドワードマッククラッケンは、意思決定について次の様に述べています。
我々の業界では、思索するための時間が持てない。確かに前もっての分析は欠かすことが出来ないが、最終的には自分の理性に干渉を許さない形で自らの直観に頼らざるを得ない。
この直観と言うのが、我々の内深くに潜む感性からの静かな訴えになるわけですが、彼の場合この訴えにコンタクトするために「何もしない」時間をつくっていると言います。この時間は、ただ仕事をしないだけにとどまらず、時間つぶしの活動も一切挟まないそうです。最近トレンドになっている瞑想や「今ここに注意を向ける」マインドフルネスも通じるものがあります。
年間売り上げ20億ドルの電力会社ウィスコンシン・エナジーのCEOリチャード・アブドゥー氏の場合は、何もしない時間を週8時間確保すると言う。主に散歩や工房での作業をしたり、愛車のハーレーに乗ったりするそうです。
現実を見つめなおすために、日常の仕事の忙しさと喧騒を離れて、自分だけの時間を作るように努力する必要がある。この様なことに十分時間を割かないと、状況を把握できず、いろいろな問題を発生させてしまう。
自己認識は、我々が行っている事が本当に価値がある事なのかそうでないのかを判定してくれます。もし、行動と価値観の間に食い違いが生ずると、様々な形の不安感、罪や恥の意識や、疑念、不快感や自責の念などが生じます。これらが感情のブレーキとなります。
一方で行動と価値観が一致していれば、選択の正しさを感じられるだけでなく、選択を追求するために入手可能な関心とエネルギーを最大限に高めてくれます。価値観を重視する人材は、感情的なつまらない雑音は最小に抑えることが出来ます。つまり価値観に気付き、その声に従って行動することがEQスキルのスタート地点になるのです。
このように、25種類の感情コンピテンスがあります。会社が求めている人材はまさに卓越したEQスキルの人材です。人間関係で仕事が行き詰っている方にお勧め。